国際決済を変革する「オンチェーン金融」の可能性
企業のグローバルな取引が拡大する中、法人の国際送金プロセスには複雑な仲介構造が存在し、処理時間やコストの面での課題が残されています。これらの構造的な課題を解決する手段として近年注目を集めているのが「オンチェーン金融」です。
2026年8月19日、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWS) 「AWS Future of Money ~デジタル通貨が拓く次世代決済インフラ~」において、当社執行役員の田子島が、SBI新生銀行、Partiorとともにパネルセッションに登壇しました。
「トークン化預金×クロスボーダー決済――DCJPYが描く国際送金の未来」をテーマとした本セッションでは、従来の国際送金システムと比較しながら、複数の金融機関をつなぐネットワークの重要性について意見が交わされました。本稿では、セッションで示された知見をもとに、オンチェーン金融の実用化に向けた現状と課題を整理します。
目次
1. 国際送金の効率化に向けたオンチェーン化
法人向けの国際送金では、複数の中継銀行を経由して、送金情報と資金を受け渡す仕組みが一般的です。
この構造では、関係者間での確認や処理に時間がかかるだけでなく、手数料や着金額を事前に把握しにくい場合があります。また、送金の途中経路や処理状況が見えにくく、資金の流れを一貫して把握することが難しいという課題もあります。
こうした課題に対する解決策の一つとして、ブロックチェーン基盤上で送金情報の伝達と資金決済を統合するアプローチが考えられます。
従来は別々に処理されていたメッセージの伝達と資金決済を同一基盤上で処理できれば、仲介プロセスを減らし、送金をより迅速に進められる可能性があります。さらに、あらかじめ定めた条件に基づいて照合や決済を自動化することで、送金額の差異や関係者間の認識のずれを抑えることも期待できます。
オンチェーン化は、単に処理速度を高めるための技術ではありません。送金情報と資金の動きをより密接に連動させることで、送金にかかる時間や手数料、最終的な着金額、処理状況などを事前に見通しやすくし、国際決済の透明性を高める仕組みとしても重要です。
2. オンチェーン金融の価値を高めるクロスバンクネットワーク
オンチェーン金融の価値は、単一の金融機関内で利用されるだけでは十分に発揮されません。異なる銀行や国をまたぐ取引に活用されることで、その社会的・事業的な可能性はさらに広がります。
例えば、買い手と売り手が異なる金融機関を利用している場合でも、同一のネットワーク上で決済できれば、国際取引に伴う手続きや確認の負担を軽減できます。資金移動をよりシームレスに実現できることは、企業間取引の効率化にもつながります。そのためには、単一銀行内に閉じた仕組みから、複数の国・金融機関が参加するクロスバンクネットワークへと発展させることが重要です。
オンチェーン金融の価値は、技術そのものだけで決まるものではありません。どれだけ多くの金融機関や事業者が参加し、相互に接続できるかによって、実現できる取引の範囲や経済価値が大きく変わります。
3. 普及の鍵となる「相互運用性」と「信頼」
オンチェーン金融の普及には、技術基盤の整備だけでなく、異なるデジタルマネーを接続する相互運用性と、金融取引に必要な信頼性の確保が欠かせません。
今後は、トークン化預金・ステーブルコイン・CBDC(中央銀行デジタル通貨)など、さまざまなデジタルマネーが併存する可能性があります。それぞれの資産を安全かつ円滑に交換・決済できる環境を整備することが、オンチェーン金融の利用範囲を広げる前提となります。
一方で、異なる仕組みを接続するだけでは、金融サービスとして社会に定着させることはできません。トラベルルール、KYC、AMLなど、既存の法規制やコンプライアンスへの対応も重要な論点です。
新たなデジタルマネーを安心して利用できるものにするには、金融機関が培ってきた信頼やガバナンスを活用し、従来の金融取引と同等の安全性や信頼性を提供する必要があります。つまり、オンチェーン金融の社会実装には、異なる仕組みをつなぐ「相互運用性」と、安心して利用できる「信頼性」の両立が求められます。
4. AIとの連携で広がる新たな金融体験
オンチェーン上の資金移動とAIを組み合わせることで、金融取引のあり方はさらに変化する可能性があります。
AIが取引内容や条件を判断し、オンチェーン基盤がその判断に基づく決済を実行することで、与信判断、購買、支払いなどのプロセスを自動化できる可能性があります。
決済エージェントなどの活用が進めば、企業や個人に代わって、取引条件の確認や支払い判断、決済処理までを自動的に実行できるようになるかもしれません。このような仕組みが実現すれば、オンチェーン金融は単なる資金移動の基盤にとどまらず、金融サービスの提供方法や顧客体験そのものを変革する存在となります。
5. 日本の金融業界に求められる次の一手
米国や欧州、韓国をはじめ、各国で金融インフラのオンチェーン化に向けた取り組みが進んでいます。
オンチェーン技術によって、資金をより効率的かつ柔軟に運用・決済できる環境が整えば、企業活動や国際取引のあり方も大きく変わる可能性があります。日本の金融業界にとっては、こうした変化を追随するだけでなく、国際的な金融ネットワークの形成に主体的に関与できるかが重要になります。トークン化預金やクロスボーダー決済の実用化は、日本の金融がグローバル市場で競争力を発揮するための重要なテーマです。
6. 商用化を見据えた接続性の検討へ
SBI新生銀行、Partior、当社が推進する新たな決済基盤は、商用化に向けて開発が進められています。
金融インフラのオンチェーン化は、もはや遠い将来の構想ではありません。商用化を見据え、金融機関や事業者が具体的な利用方法や接続性を検討する段階に入っています。
今後、国内外の金融機関や事業者をつなぐネットワークが形成されれば、国際送金だけでなく、企業間取引やデジタル資産の活用にも変化をもたらす可能性があります。
当社は今後も、トークン化預金プラットフォーム「DCP」の社会実装を通じて、より効率的で信頼性の高い次世代決済インフラの構築に取り組んでまいります。
イベント概要
- イベント名:AWS Future of Money ~デジタル通貨が拓く次世代決済インフラ~
- 開催日時:2026年8月19日(水)15:00~19:00
- 開催場所:渋谷外部会場
- 形式:対面開催

